医療・医学なんでもコラム

コラムNo.4  最近の新薬や先進治療 -光と影- 

近年、新薬の発売は以前より減少しています。これはある意味しかたのないことです。新薬の登場は医学の進歩に並行して進められるものですが、その医学の進歩は徐々に頭打ちになってきているのですから。とはいえ、ノーベル賞で話題になったオプジーボなどのように癌医療のbreakthrough (突破口)となるような薬が開発されれば同じ系統の発展的な薬剤が開発されると思います。癌医療については現在も発展途上です。私が大学勤務時代に専門としていた核医学分野でも癌治療の期待が高まっています。癌に特異的に取り込まれる薬剤にα線やβ線といった放射能を持った物質を結合させて体内に投与するRI(ラジオアイソトープ)治療です。現在、国内では甲状腺癌、悪性リンパ腫、前立腺癌骨転移でこの治療が行われていますが、ドイツなどで行われている研究成果を見ると神経内分泌腫瘍、前立腺癌すべての転移に対するRI治療が一定の成果を上げています。RI治療の利点は副作用が極めて少ないために繰り返し実施可能であることです。今後の治療成果が待たれるところです。

 このように画期的な治療が出てくると、脚光を浴びますが、残念ながら多くの治療は臨床例を重ねるにつれ有効性に陰りが出てきて、行われなくなるか他の治療に置き換わっていきます。RI治療についても医療費は高額ですが、国内ではそれに見合った成果が出ておらず、現在でも治療件数が増加しているのは甲状腺癌のみという状況です。

一方、新たな治療にはリスクがつきものです。肺腺癌に有効とされる分子標的薬のイレッサ(ゲフィチニブ)は日本が海外に先駆けていち早く認可されましたが、その後間質性肺炎の副作用が出てそれが原因で多くの死亡例が報告されました。このような事例があると厚労省もなかなか日本初の薬剤は認可しにくいでしょう。現在はほとんどの新薬は海外で安全性が確認された薬剤が認可される体制が取られています。逆に言うと、国内でも海外でも認可されたばかりの新薬をいち早く使用することは大きなリスクがあると思った方が良いです。

昔から行われている癌の放射線治療の成績は進歩してきています。画像診断の進歩により癌の照射範囲の決定についてより正確になり、さらにそのターゲットに照射する技術(3次元照射、IMRTなど)が進歩したことによります。昔に比べて癌に対してより高い線量を効率良く照射し、かつ正常部位には可能な限り低い線量が当たるように照射することが可能になっています。効率の良い照射といえば陽子線治療も期待されています。しかし、この治療法は保険適用外となり280-300万円の自費負担がかかります。

循環器系に関する薬物治療は近年、手詰まり感があります。降圧すればするほど予後が改善します、と叫びながら頑固な高血圧を治療するにはまだ限界があり、ガイドライン通りにはならないのが現状です。ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)が出て以来、20年も新たな作用機序の降圧剤は世の中に現れていません。そのため多剤併用が当たり前となり、ポリファーマシーの原因となっています。1剤でも降圧効果の高い降圧剤が臨まれるところですが、さらなる開発が待たれます。循環器系の侵襲的治療については様々な治療が出てきていますが、これに関しては別のテーマで論じたいと思います。

まとめますと、新たな薬剤や治療法は一定の成果が期待されるも副作用のリスクや効果の有効性が症例の積み重ねがないと信頼できません。医療費も高額になりがちで国の財政や個人の経済的問題が無視できません。新たな治療を選択する場合には他の治療が難しく、且つ適応が十分確認されている場合にのみ考慮されるべきでしょう。

次回は「エビデンス(証拠)に基づく医療って何?」をお送りします。

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