前回、狭心症のエビデンスについて一部お話したので引き続き、狭心症のお話をしましょう。狭心症とは心臓を栄養する冠動脈という血管が高度に狭窄して心臓に十分血流が行き渡らず心臓が悲鳴を上げる状態のことを言います。悲鳴を上げる場合、たいていは「胸が痛い」と感じますが、人によっては「左肩に違和感がある」、「息苦しい、息が吸えない感じ」など人によって症状の感じ方が異なります。これらの症状がどんどん悪化している場合には不安定狭心症といって狭窄病変が進行している可能性があります。不安定狭心症はやがて急性心筋梗塞を起こしやすい状態なので、少なくとも入院して安静にする必要があります。循環器専門病院であればすぐに心臓カテーテルを用いた冠動脈狭窄を広げるバルーンとステントの治療を行います。不安定狭心症では薬物療法よりステント治療が明らかに有効です。
逆に狭窄病変が進行なく安定している場合には安定型狭心症と定義しています。安定型の場合、症状はほとんど労作で起こります。運動により心臓への血液供給の需要が増えますが、狭窄があると血液が需要に応えられず労作時のみ心筋虚血という状態になります。従って狭心症があるかどうかを調べるには運動負荷試験を行います。負荷を行う場合には必ず心電図と血圧計を装着し、軽い負荷から段階的に重い負荷にアップしていき症状が起こるかどうかを確認します。私はこの運動負荷を行い、運動のピークでアイソトープという放射性物質を注射して心筋血流を画像で見て診断する心臓核医学検査(心筋シンチ)を専門としています。狭心症患者を大量に抱える東京女子医大で年間2000例近くの症例を20年に渡り経験を積みました。患者さんの検査準備をしながら患者さんと対話したりカルテをcheckしたりしながら情報を得、運動をしてもらうことで日常生活に十分な体力を持っているのか、心臓ではなく肺機能が悪いのかどうかなどを把握することが可能です。現在当院で狭心症が疑われる患者さんがいれば、女子医大や私が半日非常勤勤務をしている立正佼成会病院に来てもらい検査を行っています。運動負荷検査は心臓病の診断の基本なのですが、近年、循環器医はこの検査をおろそかにする傾向にあります。すぐに心臓カテーテル検査を行い白黒つけようとしていますが、カテーテル検査のみで判断しようとすると過剰診療が増加します。現在は生理的狭窄を調べてからステント治療の適応を決めることになっており、カテーテルで冠動脈内圧を測定して算出するFFRという指標をみながら治療することが推奨されています。しかし、ここで治療の目安とされるFFR<0.80はかなり甘い指標といえます。というのもFFR0.8の狭窄レベルでは実際の狭心症は起こらないのです。ステントを入れないとその後の心血管イベントに左右されるFFRレベルは<0.7というデータを出す研究も散見され、その閾値をよく反映しているのが負荷心筋シンチで示される虚血のサインです。私は負荷シンチを行って虚血を判断し、その結果ステントの適応と判断した限られた患者さんのみをカテーテル検査に紹介しています。これにより無駄に侵襲性のあるカテーテルを避け、高い医療費をかけることなく済みます。負荷シンチも高額ではありますが1泊入院してカテーテル検査を行うよりはずっと安価で非侵襲的です。心臓核医学検査(心筋シンチ)に興味を持たれた方は学会ホームページをご参照ください。
http://www.jsnc.org/jsnc-seminar/001
一方、狭心症の検査として近年増加しているので冠動脈CT検査です。造影剤を静脈から入れ、心電図に同期させて撮像することで静止した状態の造影冠動脈を撮影することができます。これにより冠動脈の内腔の狭窄などがわかる検査です。カテーテル検査に変わる検査として利用されていますが、CTの話題は次回にしましょう。
次回は「狭心症はどのように診断するのか(その2)」として冠動脈CTを中心にご紹介します。