前回、心不全の病態について説明しました。それでは心不全になってしまったらどのように治療したらよいのでしょうか?心不全状態では循環不全を起こすことにより、体液が肺や胸腔、下肢を中心とする皮下組織にむくみとして貯留します。従って、この貯留した水分を身体から排出すればよいわけです。最も一般的な心不全治療薬である利尿剤は、腎臓に働きかけて尿として水分を強制的に排出させる薬剤です。心不全では出口が渋滞して水分が出られない状態になっているので、その出口をスムーズに排出させれば渋滞が解消されるというわけです。もう一つ、心不全を増悪させている病態の一つに反射性の交感神経の亢進があります。これにより血管が収縮して循環をさらに悪くします。それを解消するために血管拡張薬で血管を弛緩させることが重要です。急性期は利尿と血管拡張で循環不全が改善して退院するところまでいきます。交感神経の亢進は反射的なもので完全に抑えてしまうと逆に心不全が悪化しますが、適度に抑えると心機能自体が改善する可能性があります。ベータ受容体遮断薬という種類の交感神経抑制薬を少量から投与するのが一般的な治療法です。 心機能が急激に低下して起こる心不全の場合、原疾患の治療を優先することが重要です。最も多いのが急性心筋梗塞で、血管が詰まって心筋が壊死するために心機能が弱り心不全を起こすことがあります。この場合、早期の血行再建を行うことでその後心機能が改善し、直ちに循環不全が解消することがあります。
以上が多くの心不全症例で行われる治療法ですが、心不全患者さんは腎機能障害を伴うことも多く、利尿剤が必ずしも有効とは限りません。腎機能が廃絶している透析患者さんの場合には透析しながら水分を除去することで心不全は改善します。また利尿剤や血管拡張薬だけでは間に合わない患者さんでは心機能を一時的に強くしながら心不全を改善させるカテコールアミンという点滴治療を併用します。近年、トルバプタンと言われるバソプレシンというホルモンを抑える薬が開発され、重症心不全の治療として用いられるようになりました。バソプレシンは利尿を抑える下垂体後葉ホルモンで、これを抑えることにより利尿を促し心不全を改善させます。但し一錠の薬価がかなり高く、重症心不全例に限定して使用されることが一般的です。 以上のように心不全状態になっても投薬により改善することができます。しかし、このような状態にならないよう予防することが重要です。予防については次回にお話します。