医療・医学なんでもコラム

院長が日々診療に携わる専門家としての知見から、医療や医学について様々なテーマで語ります。現状の医療と医学の実情がわかるコラムです。

コラムN0.2 院外薬局は何が問題か?

当院には院内薬局があり、診療後すぐに院内で処方した薬をお渡ししています。最近はほとんどの医療機関が院外薬局制をとっていますが、患者さんが診療後に別の場所にある薬局に行って薬を取りに行かねばなりません。そういう煩わしさのない当院の院内薬局は患者さんには便利だと好評です。昔はすべて院内処方でした。政府が院外薬局制を導入した意図としては、医師が薬を沢山出したり(ポリファーマシー)不適切な処方したりするのを薬局に常駐する薬剤師が監視し、薬の削減を目的としているとのことでした。しかし現実はどうでしょう。より高い調剤料に加えて薬剤師が管理するための管理指導料が生まれ、患者負担が増加したにもかかわらず、不適切処方やポリファーマシーが改善したとは言えません。ちなみに院外の場合、薬剤関係の医療費は院内の約3倍にもなります。ポリファーマシーについては患者に不利益があるとのことでようやく最近になって厚労省が注意喚起に乗り出すようになりました。そもそも、薬剤師が院外で独立して診療していることが問題で、患者さんのカルテを診ることはおろか、医師から患者さんの病名すら伝えられません。例え処方箋の内容が不適切でも変更できるのはせいぜい投与量や服用法くらいです。処方した薬剤を削減したり同効薬剤以外の薬に変更したり場合には医師が説明し直さねばならないことが多く、難しいでしょう。薬剤師は難しい国家試験を受けて専門的な資格を得ています。薬剤の特徴のみならず医学の基礎知識を勉強し、病院実習などで実臨床の研修も積んでいます。しかし、残念ながら院外で薬を出しているのでは医師とのコミュニケ-ションはうまくとれず、知識や経験を生かしきれていません。願わくは院内薬局に常駐して医師と処方について相談する体制を作るべきでしょう。少なくとも診療室と同じフロアに薬局を置き、患者のカルテを共有することが大切だと思います。現在の診療報酬では薬剤師が院内に常駐しても管理加算がとれませんので診療所に薬剤師が常駐していることはまれだと思います。これからの医療制度の改革に期待します。

次回は「ジェネリック医薬品」について書いてみます。

コラムNo.1 今医療現場で何が起こっているか?

医療現場と言えば主役は高齢者です。ご存知のようにこの高齢者の割合が年ごとに増加しています。いわゆる少子高齢化社会ですね。高齢者は若い人たちより明らかに多くの病気を持っているので医療費が年々増加するという問題に直面しているのです。2016年の国民医療費は42兆円で20年前より+14兆円、10年前より+9兆円増加しています。特にこの10年の増加が著しい。医療費とは別に介護費用など社会福祉の費用も同時に増加します。国民医療費/国民所得の割合もこの20年間に7.3から10.8%に増加しました。ある知人が冗談で「日本に金(ゴールド)がでれば解決できる」と言っていましたが、日本は石油もダイヤもゴールドも出てきません。とにかく実力で外貨を稼いだりもの作りをしたりしないといけません。しかし、この膨れあがる医療費を稼ぎ出す若者の割合が減少しているのが実情です。アベノミクスのように日銀で紙幣を刷ってばらまくのは限界があるでしょう。そのような状況で医療費は今後間違いなく削減されていくでしょう。別の言い方をすれば新しい治療や技術を導入する代わりに既存の医療が縮小されていく可能性が高いと思われます。厚労省は今後以下のような対策をとることが推測されます。

  • 高齢者医療費の負担増
  • 在宅医療の推進
  • ジェネリック医薬品の徹底普及
  • 院外調剤関係の診療報酬見直し
  • 同一多重医療の制限(紹介無しで別病院の同じ科をハシゴすることの制限)
  • 新薬や先進治療導入への厳しい認可姿勢
  • エビデンス(証拠)に基づく医療の推進 (→既存医療への厳しい査定)
  • 風邪などの日常疾患医療の査定や一部有償化
  • 救急車の有償化

まだいろいろあるでしょうが、我々の業界内では以上のような対策が予想されています。しかし、このような対策をすべて悲観的に見る必要はありません。こういう状況だからこそ医療を見直すきっかけになるのです。

私は日常診療をしながら現在の医療の現状に多くの疑問を感じることがあります。その疑問をいろいろと紹介しながら、自分が診療の中でどのように実践しているか、これからどうしたら良いのか、常日頃考えていることをこのコラムに書き綴ろうと思います。

次回は「院外薬局は何が問題か?」をテーマに語ります。

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